「哀愁のロールプレイングゲーム」

何をかくそう、僕はゲーム音痴である。

家庭用ゲーム機遍歴は、初代ファミリーコンピューターで見事に止まった。

十字キー以外のボタン(セレクト・スタートは除く)が3個以上になるともう駄目である。選択肢が多すぎて瞬発力が極端に下がってしまうのだ。

僕を知っている人の中には、ゲームセンターでサッカーゲームの「バーチャストライカー」に興じる僕の姿を見たことがある人もいるかもしれないが、僕は、ゲーセンではほとんどあのゲームしかできないのだ。

僕のゲーム音痴を裏付けるようなエピソードがある。

小学生の頃、最初に買ったファミコンソフトは「スーパー・マリオ・ブラザーズ」と比較的まともだったが、それからしばらくして誕生日かなんかにソフトを買ってもらえることになった時、「ドラゴンクエスト(初代)」を買った方がいいという兄の勧めを押し切って、

「ゲゲゲの鬼太郎」を買うという狂行(?)に及んだ。

「ゲゲゲの鬼太郎」も当時としてはかなり面白かったのだけれど、その後の「ドラクエ」シリーズのブームを考えれば、やはりこの選択は失敗といわざるをえないだろうと思う。

僕には、「ゲーム勘」「ゲーム嗅覚」みたいなものが欠けていたようだ。

その後、「ドラクエ」は友達から借りてやってみたのだが、実は僕、結局「ドラクエ」をクリアできなかった。最後のボス(名前忘れた)までは行ったんだけど、そこで生来の飽きっぽさが出て、あっさり諦めてしまったのだ。

それ以来、ロールプレイングゲームというものに関して、いい思い出が一つもない。

「ドラクエ?」もやってみたが、やたらと長い「復活の呪文(データをロードするためのパスワード)」を写し間違ったかなんかして復活に失敗(?)したことに腹を立て、

「こんなモン、2度とやるか!」と投げ出してしまった。

また同じく小学生の頃、仲の良かった友達・Kの家へ遊びに行くと、Kが一人熱心にファミコンに興じていた。

カセットを見ると、当時発売されたばかりの「ドラクエ?」だった。

その日は、学校のグラウンドで野球をする約束をしていたのだが、Kはどうも、家に着くなり買ったばかりの「ドラクエ?」が気になって

「んー、じゃあチョットだけよ」

と言いながら、欲望に負けて「ドラクエ?」を始めてしまったらしかった。

ロールプレイングゲームというのはドラクエに限らず強い耽溺性があって、一度始めてしまうと簡単にはやめられない。

それなのにKは愚かにも、野球の約束があるにもかかわらず、その魔境に足を踏み入れてしまったのだ。

テレビ画面に向かうKの両目はランランと輝き、僕が迎えに来たというのに、全く動こうとする気配がない。当然のように僕は怒った。

「おい、K。今日は野球をするんじゃなかったのかよ!早くやめろよ!」

しかし敵もサルモノだった。Kは、僕が怒るであろうことを予め想定して、恐ろしい仕掛けを用意していた。Kはテレビ画面を指差して言った。

「秋沢、ちょっと待て。このパーティーの‘戦士’の名前を見てみろ」

しぶしぶ‘戦士’の名前に目を遣ると「おおっ!」、何と僕の名前と同じ「ヒトシ」と名付けられているではないか。

Kは僕の驚きを察知し、さらに追い討ちをかける。画面上で、タイミングよく現れた敵を倒した。

「ほら、レベルが上がったよ!」「おおっ!」 

「ヒトシはレベルがあがった」という表示が画面にでた。これは、なかなか気持ちがいい。

少し気持ちがぐらついた。「このまま、ドラクエに興じるのもいいかなあ」などと思い始めてしまったのだ。

Kはもう一息で僕を落とせると踏んだのか、弱そうな敵を選んでは、執拗に次々となぎ倒してゆく。その度に

「やったー、〜を倒したゾー!」

「やったー、レベルが上がった!」などと派手に叫んだ。

僕も最初は、「すごいなあ」などと相づちを打っていたが、‘戦士’に自分の名前が付いたところで、ゲームをしているのは所詮Kなので、だんだんバカバカしくなってきた。

「バカかお前、こんなんじゃ、全然面白くないんだよ!」と今度はマジギレ気味。

するとKは「バカ」というワードが引っ掛かったのか、「どっちがバカだよ。バカは外で野球でもやってろよ」と、

ついに踏んではならない「リーサル・ウェポン」的地雷を、思い切り踏んでしまったのだ。

「なんだとおおっ!」

と完全にブチ切れた僕は、持っていた金属バット…は使わず、Kがゲームをしている最中のファミコンの電源を、有無を言わせず強引に切るというオキテ破りの攻撃に出た。

「ああああああっー!」

というKの叫び声を、テレビの「ザー」という音だけが無情に包み込んだ。

一瞬の沈黙の後、Kは涙を浮かべながら

「ぬおおおー!」

と叫んで、僕に向かって突進してきた。

その後、僕たちが、「コノー!コノー!」という「NHK教育」的「とっくみあいのケンカ」をしたことは言うまでもない。

「…Kを倒した。ヒトシはレベルが上がった。」

〜哀愁のロールプレイングゲームに「血の雨」が降る〜

だから僕は、ロールプレイングゲームはきらいなのです。

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えせいずむ!アキサワ☆まがじん。

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